身の丈の幸せ。
なぜ働き、なぜ起業するのか
「こんな仕事がしたい!」
「あんなこともできるはず!」
「今までにないビジネスなんです」
「絶対に儲かります」
「会社を作りたいんです」
交流会には、そんな熱い想いを持った若い方がよく来られます。
夢があること自体は、とても素晴らしいことです。
新しいことを考え、未来を描き、行動したいと思う気持ちは、誰にでも持てるものではありません。
けれど、その話を聞いていると、いつもひとつ気になることがあります。
それは、**「なぜ起業するのか」**という問いに、はっきり答えられない人が意外と多い、ということです。
起業は、アイデアの面白さだけでは続かない
「上場したいんです」
「まだ誰もやってないんで」
「これ、すごいと思いませんか?」
もちろん、そういう発想が悪いわけではありません。
ただ、そこで立ち止まって考えたいのです。
なぜ、その仕事をしたいのか。
なぜ、自分がそれをやる必要があるのか。
なぜ、起業という形でなければいけないのか。
この問いに向き合わないまま走り出すと、起業はただの“勢い”で終わります。
アイデアそのものに、そこまで特別な価値があるとは限りません。
同じことを考えている人は、世の中にいくらでもいます。
「自分だけの発想だ」と思っていても、実際はすでに誰かが考え、誰かが試し、誰かが失敗していることも珍しくありません。
だからこそ大事なのは、
思いつくことではなく、実行すること。
しかも、誰よりも早く、誰よりも粘り強くやり続けることです。
起業に必要なのは、夢より先に覚悟
起業を軽く考えてはいけません。
空想でも、理想論でも、勢いでもない。
本当に事業を始めるなら、まず必要なのはリスクを取る覚悟です。
自分ひとりの力でやってみる。
失敗しても学ぶ。
思うようにいかなくても、改善して続ける。
泣きたくなるような時期があっても、前を向いて働き続ける。
成功している人を見ると、華やかな部分ばかり目に入りがちですが、実際には見えない努力の積み重ねがあります。
寝る間を惜しんで働き、仕事そのものが自分の生き方になっているような人も少なくありません。
そこまでやって、なお結果が出るかどうかはわからない。
最後は運もある。
出会いもある。
巡り合わせもある。
だから起業とは、
「やれば何とかなる」世界ではなく、やり切ってもなお厳しい世界なのです。
会社を続けることは、始めることより難しい
会社は作るだけなら作れます。
けれど、続けることはまったく別の話です。
しかも今は、30年前とは状況が違います。
情報は一瞬で広がり、良いビジネスはすぐ真似されます。
ひとたび結果が出ても、後から後から競合が現れる。
競争は終わりません。
会社経営は、一度勝てば終わりではないのです。
繰り返し、繰り返し、最低限の結果を出し続けなければならない。
つまり経営とは、
**“勝つこと”が目標なのではなく、“負けない状態を保ち続けること”**でもあります。
その厳しさを理解していないまま起業すると、本人だけの問題では済みません。
取引先、お客様、仲間、家族。
多くの人に迷惑がかかります。
まずは、今の仕事を辞めずに1000万円貯める
私は、起業したいという人によくこう伝えています。
「今の仕事を辞めずに、まず1000万円貯めなさい」
厳しく聞こえるかもしれません。
でも、本気で起業を考えるなら、これは現実的なひとつの基準です。
1000万円という金額は、決して簡単ではありません。
けれど、必死に働いて、見栄を張らず、無駄遣いを減らせば、数年で届かない額ではないはずです。
逆に言えば、そこまでの覚悟もなく、
すぐに国金、助成金、VC、パトロン、親戚、友人……
とにかく外からお金を引っ張ることばかり考えている人は危うい。
苦労して貯めたお金だからこそ、その重みがわかる。
その重みがわかる人ほど、使い方も慎重になります。
事業資金は、集めることが目的ではありません。
使い切ったあとに、どう回すかまで考えて初めて意味があります。
そして忘れてはいけないのは、
どれだけ頑張って貯めたお金でも、事業を始めれば数週間で消えることもあるという現実です。
安易に借りるお金は、未来の自分を苦しめる
起業してからも同じです。
安易にお金を借りないこと。
特に、耳ざわりのいい話をしてくる相手には注意が必要です。
資金調達が悪いわけではありません。
ですが、自分で稼ぐ力が伴っていない段階で借りるお金は、未来の自分を追い詰める可能性があります。
お金に苦労せず始めた人は、お金の有り難みがわからないまま進んでしまうことがあります。
その結果、終わり方も雑になる。
見苦しくなる。
周囲に迷惑をかけ、信用まで失ってしまう。
起業とは、自分の夢を叶えるためだけのものではありません。
社会に責任を持つことでもあります。
だからこそ、軽い気持ちで踏み出していいものではないのです。
理念のない起業は、苦しい時に折れてしまう
経営を続けるには、数字だけでは足りません。
日々のしんどさを越えていくためには、腹の底から突き動かされるテーマが必要です。
なぜ、この仕事をやるのか。
誰のためにやるのか。
何を守りたくて、何を残したいのか。
そこに、太くて大きな理念がなければ、会社は長く続きません。
目先の儲けだけでは、しんどい局面を越えられないからです。
未来のその先まで、まっすぐ伸びていくような考え方。
自分の人生をかけてもいいと思える軸。
それがあって初めて、人は苦しい時にも立ち上がれます。
私たちは、選ばれた人間ではない
やりたいことが、全部できるわけではありません。
やれないことの方が多い。
我慢しなければならない時もある。
結果を求められ、責任を負い、しんどい思いをする日もある。
でも、それは特別なことではありません。
多くの人がそうやって働いています。
皆、それぞれの場所で頑張っています。
一時の野心だけでは、現実は越えられません。
仕事は甘くない。
起業も甘くない。
けれど、それでも働く意味を見つけられた人は、強い。
なぜ働くのか。なぜ起業するのか。
では、なぜ働くのでしょうか。
では、なぜ起業するのでしょうか。
売上のため。
生活のため。
家族のため。
夢のため。
社会のため。
いろいろな答えがあると思います。
そして、その答えは年齢や経験とともに少しずつ変わっていくものでもあります。
私自身、最近ようやく、少しだけわかってきました。
今の私は、こう答えています。
「身の丈の幸せをつかむため」
派手である必要はない。
大きく見せる必要もない。
誰かにすごいと言われるためでもない。
ちゃんと働いて、ちゃんと責任を果たして、
自分にとって大切な人や時間を守りながら生きていく。
その積み重ねの先にある、無理のない幸せ。
それをつかみにいくために、私たちは働くのだと思います。
起業もまた、その延長線上にあるべきものではないでしょうか。
夢を見るのはいい。
挑戦するのもいい。
でも、その前にまず、足元を見ること。
背伸びではなく、地に足をつけること。
それが結局、遠回りに見えて一番強い。
私はそう思っています。